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第四話 事件の前と後

مؤلف: 紡里
last update تاريخ النشر: 2026-07-26 13:03:34

 魔術師ガーボルは、巻き戻った翌日にわたくしに接触してきた。

 そこで、色々と教えてもらったのだ。

 わたくしの死がどう扱われたか。マールトンとカタリンの結婚生活とか。

 わたくしの両親は、特に変わりなく生活していたようです。仕事があれば、幸せなのでしょう。

 ガーボルは、普段は街の小さな魔道具店で、主に魔道具修理を請け負って生活している。

 時々、騎士団の依頼で協力したり、便利屋みたいなこともやっている。令状を取るほどの確証はないが、とても怪しい状態の時にこっそり魔術的な鑑定してあげるとか。

 そうすると、逆の時に便宜を図ってもらえたりして、比較的自由に暮らしているそうだ。

 今回、わたくしもその伝手にずいぶん助けられたわ。

 彼と初めて会ったのは、「珍しい魔道具に興味はありませんか」と自宅に突撃してきたときだ。

 執事たちも、魔道具関係の客にはあまり警戒しない傾向がある。

 魔術師は変わり者が多く、ビジネスチャンスを一度逃すと、再度縁を繋ぐのが難しいのだ。

 両親も兄もいない時間にやってきたので、わたくしが応接室で対応した。

 色とりどりの花が咲く魔道具や、紅茶を淹れてくれるぬいぐるみなど、実用性があるのかないのか微妙な品ばかり。

 この魔術師はハズレだと思ったところで、奇妙なことを耳打ちされた。

「マールトン・ヘーデルヴァーリから、イロナ・セーケイを生き返らせる依頼を受けた。

 成功したと考えていいかな?」

 情報を求めていたわたくしは、飛びついた。

「そうね。そう考えていいと思うわ」

 事情を知らない者たちには聞かれたくない。

 侍女に「魔道具の機構についてお話を聞くので、下がって」と命じる。

 よくあることなので、侍女は壁際まで下がり、耳栓をした。

 まずは、お互いの認識をすり合わせる。

 わたくしはカタリンに毒殺された。だが、一般には自殺と思われている。

 マールトンはわたくしの死後にカタリンと結婚したが、彼女の不貞を知り、人生をやり直したいと考え、時間を巻き戻した。

「カタリンと離婚して、再婚すればいいと思うのだけど。マールトンはまだ二十代だったのでしょう?」

「さあ? そこはどう考えていたのか深く聞いていない。

 僕としては、古代の魔道具を使わせてもらえるなら、なんだっていいんだ」

 本当にマールトンに興味がないのだろう。

「それでは、なぜわたくしに接触してきたの?」

「事情を知らなかったら、ビックリするだろうし、怖いだろう?」

「ええ、わけが分からなくて、怖かったわ。来てくれて、ありがとう」

 夢か現実かわからない状況など、不安しかない。

「どういたしまして。君は前回二人に振り回された。今回も、それじゃあ可哀想かなって」

「マールトンには記憶があるのよね? わたくしにも記憶があるって知っているのかしら?」

「いや、知らない。というか、僕も君に訊くまで、記憶がある確率は半々だと思ってた」

「それなら、知らないふりをして、マールトンの様子を見てみるわ」

「じゃあ何かあったら、魔道具が壊れたって修理に呼んで」と、ちゃっかり持ってきた物を売りつけられた。

 疑われずに会合を開くための小道具だから、必要経費かしら。

 それからは、修理をするフリをしながら、情報交換を重ねた。

「マールトンは、少しカタリンに冷たくなったかもしれない。ほんの少しだけ。

 今まで無視していたわたくしに、挨拶だけはするようになったわ。死ぬ前のわたくしだったら、喜んだでしょうね。

 だけど、正気に返ってしまえば、あんな男ちっとも魅力がないのだもの。目障りだから、近くに来ないでほしいわ。

 以前のようにカタリンとイチャついていればいいのよ」

「それだけか? 

 反省して婚約者らしくなるとか、『カタリンには注意しろ』って忠告するとか。せっかく巻き戻ったんだからさ」

「特にないわね。

 計画を立てたり、前もって準備したりできない人なのよ」

「巻き戻る方法を調べているときも、『早くしろ』と文句を言うばかりで、協力しなかったな。

 カタリンとも離婚しようとしてなかったし」

「ああ、『どうせ巻き戻るから』とか、そんな感じでしょうね。本当に自分の子じゃないのか、調べようともしないで過去に逃げてきたのかも」

 そう簡単に人は変わらないわね、とため息が出た。

「死んだときの症状からすると、毒薬の候補はこれだね。

 どうするか、考えはまとまった?」

「……わたくしは、あの二人に復讐をします。わたくしを裏切って、陰で笑いものにした分を後悔させたい」

「それなら、あちらが先に動くのを待って、返り討ちにしよう」

 わたくしの家の応接間で、こんな物騒な密談が何度か行われた。

 時々、「君、変わってるね」とか「面白い。いいね」とか言われながら。

 魔術師の方がよっぽど変わっているけれど、言っても無駄だから黙っていた。

 その毒薬の材料を婚約者マールトンの部屋に仕込んだのはわたくしだ。

 カタリンとデートをしている日に彼の家を訪問し、「課題をやっておけと言われたのですが」と困った顔を作る。

 過去に何度もあったことなので、使用人はわたくしを彼の私室に案内してしまう。

 今まで、わたくしをいいように利用してきた罰だわ。

 机の裏、クローゼットの隅、ベッドの下に材料を置いた。誰かが入ってきませんようにと、心臓をばくばくさせながら素早く動く。

 あとは、掃除されないことを祈るしかない。

 せっかくの人生。やり直しの機会をもらったのに、あんな信用できない男と歩むのは嫌だもの。

 ドレスアップしても似合わないと貶されたり、歩くのが遅いと乱暴なエスコートをされたり。紳士として最低の男。

 婚約してから、自己暗示で「好き」と思い込むようにしてきただけ。

 極まれに優しくされたときは感動した。こちらが彼の本性だと信じて、「またあの優しさを見せてくれますように」と真剣に祈った。

 カッコいいところを見たら、「流石だわ」と喜びをかき立てるよう努力した。消えそうな火種に慎重に風を送るような、職人級のテクニックだ。消えないように、燃え上がるように。

 彼が怒り出さないよう顔色をうかがい、ご機嫌を取っていた。怒られずに済んだ日は、「婚約者が穏やかでいてくれたおかげで、幸せでした」と謎の感謝を捧げた。

 涙ぐましい努力だったわ。

 そのあげくに、横からかっさらわれたら、虚無になるわよね。

 駄馬の世話を一生懸命していたのに、駄馬に「お前嫌い」って蹴られたようなもの。

 ショックだったけど、それは別に愛じゃない。費やした時間が無駄だったのが、悔しいだけだわ。

 腹の底では彼を「困った子だ」と見下していた。彼もそれを感じていたかもしれない。

 それでは、お互いに愛が育つわけないわね。

 誠意を持って、愛情深く接したら心は通じる――そんなふうに考えて現実から目を逸らしていた、前回の自分を殴りたい気分だわ。

 壊れた器に水を注ぐように、無駄なものは無駄なのよ。

 殺人未遂事件から一ヶ月経ち、また修理しながらの情報交換が行われた。

「巻き戻して捕まっちゃったんだから、巻き戻さない方がマールトンにとってはよかったんじゃない?」

 巻き戻し損というか。

 浮気されただけの男から、禁術使用の犯罪者になってしまったわけで。

 わたくしにとってはどちらが幸せなんだろう。

 疑いなく、「どんな人でも愛せるはず」と希望を持っていた前回。

 欺されないように慎重に行動して、生き延びたけれど、人間不信になった今回……。

「そうだね。巻き戻せば何でも上手くいくわけじゃない。チャンスを活かせない人もいるってことさ」

 魔術師は、平然と言い放った。

 もしかして、この人だけが得をしてるんじゃないかしら。

 愚かな婚約者が、何をしたかったのか――わたくしには結局、理解できなかった。

 魔術師は修理を終えた帰り際「僕が次に来るまで、次の婚約者は決めないでね」と、謎の言葉を残していった。

 それから半年。

「それで、なぜ、わたくしはあなたとお見合いをしているのかしら?」

「それは、僕がとても優秀な魔術師だと評判になって、魔術爵を得たからだね。平民の魔術師よりも、君と釣り合いがとれているだろう?

 七ヶ月前の、巻き戻り事件で活躍した功績も大きかった。つまり、君との共同作業の成果だよ。

 僕たち、相性がいいと思うんだよね」

 にんまりと、魔術師が笑った。

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  • 一月前に戻ったので、今度はわたくしから仕掛けます   第二話 マールトンの家庭の事情

     マールトンのヘーデルヴァーリ家が家宅捜索された。 そうしたら、彼が共犯らしいという証拠が出てきた。 イロナの「親友」が持っていた毒の材料が、「婚約者」の部屋から発見されたのだ。「親友」は、投獄されてすぐに「妊娠しているので牢から出せ」と主張したらしい。 もちろん、お相手は「婚約者」とのこと。 つまり、イロナの存在が邪魔になる。 それは、殺人計画の動機として充分なものと考えられた。「婚約者」は無実だと主張したが、それを信じる者はいなかった。 動機と証拠が揃ってしまったのだから。 だが、もし無実だったとしても、時を巻き戻した以上、禁術を行使したという点に関しては有罪だ。 時を巻き戻した魔道具が見つからなかったため、あるのはマールトンの自白だけ。 それなのに両親から自白を翻すように勧められても、「イロナへの愛の証明だ」と言って証言を変えない。「お前、あれだけ邪険に扱っておいて、何を言っているんだ? 我が家を潰す気なのか?」 彼の父は、イロナの父親であるセーケイ子爵から何度も抗議を受けていた。その度に言い訳して詫びなければならい。その後で、息子に反省を促していた。「我が家は魔道具で名を馳せた歴史ある家門だ。だが、財政が厳しい。量産型の魔道具を作るセーケイ家と手を組んで、今の時代に合う形に変わっていく必要があるんだ」と説明した。 それでも、マールトンはセーケイ家を見下し、イロナを口うるさいとうっとうしがった。 男爵家と手を組んで、資金援助だけしてもらっても将来の展望は開けない。しかも、数多の令息にちやほやされて喜んでいる娘など、家門に入れたくない。 言えば言うほど意固地になるマールトンに頭を抱え、何度も匙を投げたい気分になった。 だから、息子が何のつもりで今さら「愛」などと宣っているのか、全く理解できなかった。「浮気相手と子どもまで作っておいて、婚約者への愛ですって? 妄言も大概になさい。 潔癖症のイロナちゃんが、受け入れるわけないでしょう」 母は、同じ女性として許せないようだ。「それに、彼女は一人で毒殺を回避して、事件を未然に防いでしまったわ。本当に巻き戻ったのなら、なぜあなたが解決しなかったの?」 母にそう言われたら、ぐうの音も出ない。 マールトンはいつものように、ふてくされて黙って

  • 一月前に戻ったので、今度はわたくしから仕掛けます   第一話 運命の一日

     目の前にカーヒーが置かれた。 湯気が立ちのぼり、本来なら優雅なひと時を演出するはずだった。 馴染みのメイドが、卵白を泡立てて甘くしたメランジェを、わたくしのカーヒーにだけ乗せる。 いつもなら、親友のカタリンにもたっぷりと乗せるのに。 ここはカタリンの屋敷だ。 貴族学園の帰りに、どちらかの家に寄るのはよくあること。 だが、わたくしは手を伸ばさない。 焦れた「親友」が、飲まないのかと急かしてきた。「どうして飲まないの? ほら、メランジェが溶けてしまうわ」「どうして、そんなに飲ませたいの?」「喉が渇いたろうと思って」「それはあなたも同じでしょう?」 前回は、疑いもしないで飲んでしまった。 それを思い出しただけで、口の中が酸っぱくなる気がする。「……そうね、飲むわ」 そう言いながら、彼女はわたくしの顔をじっと見ている。 彼女は一口飲んで見せた。「ほら、なんともないでしょう」「変な言い草ね。なんだか怪しいわ」 カーヒーは同じモカポットから注いでいたから、きっとメランジェに毒が仕込まれているのね。「し、失礼ね!」「それなら、わたくしのカップからも一口飲んでくださる?  無理してブラックを飲むことないわよ」 わたくしの前に置かれたカップをソーサーごと持ち上げて、彼女の目の前に突きつける。「ど、どうして……」「さぁ? あなたの協力者が寝返ったのかもね」 親友がメイドを睨みつける。 ――そう、その女が共犯者なのね。 貴族学園で出会って、仲良くしてきた三年間。何度、あなたとそのメイドに、わたくしは笑われていたのでしょう。 婚約者を寝取られた間抜けな女?「誤解よ。あなたの話を訊かれたから答えただけ」という言葉を信じた、愚か者? もう、たわいない話で笑い合った、あの日々は二度と来ないのね。 受け取ってもらえなかったカップをテーブルに戻す。ささやかな未練が手元に伝わったのか、ガチャと無作法な音を立てた。 カタリンは失敗を悟ったようで、青ざめている。 詫びの言葉も言い訳も聞くことができなかった。「残念だわ」 誰に言うともなく、つぶやく。 そして、わたくしは胸元から笛を取り出し、ピィーと吹いた。 馬車に隠れていた騎士と魔術師、御者のふりをしていた警備兵が応接室に駆けつけてくれる。 止めようとする使用人

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